脂肪豊胸手術と定着率について
お胸に注入した脂肪は、全部が残るわけではない! 〜定着率という考え方〜
①定着率とは?
脂肪豊胸手術とは、ご自分の太腿やお腹などに数ミリ程度の小さな穴を開け、そこから脂肪吸引をしてきてバストに注入する、いわゆる脂肪移植手術です。
他人の脂肪では拒絶反応が起きてしまうので全く定着させることが出来ませんが(定着率0%)、ご自分の脂肪なら拒絶なしなので理論的には100%定着出来るはずですが…。
お胸に注入する脂肪は、わずか数ミリの小さい穴から脂肪吸引してきたもので、血管がついていない状態で移植しますから、移植された脂肪細胞は新しく血管が伸びて来るまでは体液から酸素や栄養をもらいながら細々と生きている訳です。
それで、ある脂肪細胞は生き残りますが、ある脂肪細胞は死んでしまいますので、移植した脂肪細胞全てが残る訳ではないのです。
この、注入した脂肪の量のうち、どのくらいの脂肪がお胸に残ったかを、脂肪の定着率と言っています。
(実際は単純に定着するだけではなく、新たに脂肪細胞が作られることなども示唆されていますが、その量もどのくらいなのか判明していないですし、量も多くはなさそうですので、ここでは便宜的に注入した脂肪がどのくらいのこったか?を定着率ということにして解説します)
この考え方ですと、例えば片胸200ccの脂肪注入をして、140cc残れば定着率70%ですし、100ccだと定着率50%、60ccなら定着率30%ということになります。
②定着率には個人差がある
では実際に脂肪豊胸手術の定着率ですが、これはかなり個人差があります(個人差と言っても、体質や年齢、正確、生活環境など、様々な要因があります)。
また、クリニックでの脂肪の扱い方でも定着などの成績に差が出ますので、出来るだけ脂肪豊胸手術に慣れたクリニック、細心の注意を払って手術をしているクリニックを選ぶのが理想的ですし、それでも心配な場合は最低限のサイズ保証をしているクリニックを選択することをおすすめします。
③脂肪定着の完了はいつ?
脂肪豊胸は移植手術で、しかも一度に200ccずつ以上と比較的大量に脂肪を注入しますから、本当に定着が完了(完成)と言われるには、早くても6ヶ月〜1年くらいはかかるようです。(これが2回目の脂肪豊胸手術をする場合に半年あける根拠の1つで、完成前の例えば手術後2ヶ月とか3ヶ月でに再度脂肪注入すると、トラブルが起きるリスクは否めません)
ただ臨床的に、見た目に大きさの変化があまりなくなるのは、手術後3ヶ月くらいでしょうか?
参考までに、当院では1回の脂肪注入量が片胸200〜250cc程度と適量なことから、サイズダウン終了が比較的早めで、トップの変化では1ヶ月目と3ヶ月目は平均で1cm程度しか小さくならないです。
例)1ヶ月目にトップが82cmなら、3ヶ月目ではトップが81cm。 (勿論、定着率と同様に定着の完成にも個人差はありますが、あくまで平均です)
逆に片胸300~350ccとか極量を超えて脂肪を大量に注入した場合、定着しなかった脂肪が吸収され終わるまで時間がかかるので、どんどん吸収されて小さくなっていきます。この辺りが脂肪豊胸は小さくなる、残らないと言われる都市伝説の理由の1つかもしれません。
片胸350ccを超える脂肪の大量注入は脂肪壊死によるトラブルの原因になりますので、避けた方が無難でしょう。
④定着率は一定ではない!
例えば、片胸200cc注入して140cc残った場合、定着率は70%ですね。
それでは、この人に片胸300ccずつ注入した場合、どのくらい定着して残るでしょうか?
この人の定着率が70%だから、210cc定着しますか?
否! 恐らく140ccの定着で変わらず、逆に120ccとか若干減る可能性が高いです。
そうすると、この場合は、定着率が40%に下がっていますよね?
このように、定着率というのは一定ではなくて、ある上限を超えてしまうと、それ以上は定着できなくなってしまうんです。
つまり、脂肪豊胸は定着率が一定で、入れたら入れただけ脂肪が定着できるのではなく、1回で定着できる量=定着量に限界、個人差がある訳なんです。
これが脂肪移植たる所以で、だから脂肪豊胸手術は一度に1〜2カップ程度のサイズアップが限界なのですが、何度も繰り返すことは可能で、脂肪豊胸をする度に足し算で大きくすることも可能です。
⑤定着率を良くする方法
積極的に定着率を上げに行く方法と、消極的に定着率が下がることを避ける方法があります。
【積極的に定着率を上げる方法】
①幹細胞を増やす
脂肪組織の中に存在する脂肪由来幹細胞は、血管新生を補ったり自身が脂肪細胞に分化する能力を持っており、これを移植する脂肪に添加すると定着率が上がるという報告があります。(人の脂肪豊胸の場合で明確に定着率が上がるというエビデンスは未だありません。あくまで理論的な話です)
ただ、自動抽出器で幹細胞を分離するには、それだけで脂肪細胞を必要とするので痩せ型の人では十分に採取できないことがあったり、よしんば採取できても幹細胞の数がそれ程多くはありません。
これを補う方法として、少ない脂肪組織でも効率的に幹細胞を採取する方法として、少量の脂肪細胞を採取して培養する方法が開発されました。
しかし、この方法もCPC(細胞培養加工施設)によって培養する能力に差があり、現在提供されている幹細胞の数は、1000万個から2億個となっていますから、その培養された脂肪由来幹細胞の数には注意が必要です。
特に、実際に培養した数が2000万個なのに、豊胸用に注入する脂肪に8000万個の脂肪由来幹細胞が混じっているはずだから1億個、と言っているクリニックもあるので、しっかりと内容を吟味する必要があるでしょう。
また、幹細胞を培養する際に、成長因子として牛胎児血清を使用するCPCもありますから、そうするとアレルギーを始めとした副作用を引き起こすリスクもありますので(同意書に書いているはずです)、定着率が良くなる筈だからと焦らないで、きちんと理解することが大切です。
②リジェネラを使用する
自分の皮膚の一部(真皮)や脂肪組織を50μのサイズに細断するのがリジェネラで、これを移植する脂肪組織に混和させると脂肪の定着がアップするという報告があります。ただ、金属アレルギー(ニッケルアレルギー)がある人には使えないので、きちんとアレルギー検査をすることが大切です。
また、ここの①、②ともに高額になる可能性がありますが、やはり効果には個人差があるので、そのような場合にサイズ保証があるかどうかも見極めに必要な要素になります。
ちなみに自分の経験からくる私見として、脂肪をコンデンスすることや、フィルターでろ過することは定着率アップにはあまり関与しないと考えています。
【消極的に定着率を上げる方法】
クリニックが気をつけるポイントと、患者さんご自身が気をつけるポイントがあります。
①クリニックが気をつけるポイント(患者さんはこれが出来ているか聞いてみて下さい)
●ベイザーを照射する場合は、パワーを下げてなるべく短時間にする(熱で脂肪細胞がダメージを受けるめ)
●脂肪吸引時に出来るだけ脂肪を空気に触れさせない(酸化ストレスで脂肪細胞がダメージを受けるため)
ここで大切なのは、気をつけるのはコンデンスする時ではなく、脂肪吸引時の注意です!コンデンスリッチシリンジに移してからは空気に触れないプロセスになるのは当然ですが、一番酸素に触れてダメージを受けるのは、脂肪吸引時ですから!
自分も様々な脂肪吸引器を経験してきましたが、一番酸素に触れる機会を減らせるのは、シリンジ法です。
●胸に注入する時は、脂肪を大量に注入してパンパンにしない(圧力で脂肪細胞がダメージを受けるため)
胸への注入時は適量(片胸200~250cc程度)にし、またしっかりと剥離してから脂肪を注入するのが、脂肪を圧力から守ります。
自分はBANNAI式オリジナル3D注入法によって剥離も同時に行えて高さを出せるので、胸の圧力上昇を最小限にすることが出来ます。
以上は、患者さんは手術されて確認しようがないですが、ドクターがこの辺りを意識しているか、それとなくカウンセリングで確認するといいでしょう。
②患者さんが気をつけるポイント(豊胸後の過ごし方で気をつけること)
●腕をあまり激しく動かさない(移植した部位を安静にして回復させる)
●体重を減らさない(栄養と回復)
●酒(アルコール)、たばこを控える(有害物質や血流に配慮する)
●うつ伏せ寝や横向きにならない(手術でバストに高さを出したり外乳を作れる場合のみ。手術で高さが出ないと、直後からうつ伏せにさせるという信じられないクリニックもあります!)
●ピルを控える(血栓が出来、移植した脂肪に血流が行かなくなるリスクがあります)
●有酸素運動をしばらく控える(代謝亢進を控えるのと安静のため)
●インディバを控える(当院ではおススメしていません。そもそもアキ―セルだと脂肪吸引部の拘縮は少ないので不要です)
●酸素カプセルに入らない(酸素が行きわたっていい気もしますが、定着が悪くなった例を何人も経験しています)
このコラムを監修したドクター
銀座3丁目・BANNAI美容クリニック 院長
坂内 誠
保有資格
医学博士/美容外科専門医経歴
-
1995
新潟大学医学部医学科卒
新潟大学医学部附属病院 外科勤務 - 1997 新潟大学医学部大学院外科学1入学
- 2001 同上卒 医学博士取得
-
2006
大手美容外科入職
都内大型院の院長を務め、グループ内の年間脂肪豊胸手術件数全国トップを毎年記録 - 2020 銀座3丁目・BANNAI美容クリニック開設 院長に就任